- 根管治療の症例
- 精密な根管治療のご紹介
- なぜ根管治療が必要なのでしょうか?
- 小さな歯の構造はとても繊細で複雑です
- 感染のコントロールのために大切なこと
- 専門医が行う根管治療
- 根管治療だけでは治らない場合
- むし歯の痛みがなくなった
- 保険の根管治療と自費の根管治療の違い
- 精密根管治療の取り組み
- 再発のリスクを抑える予防歯科
根管治療の症例
主訴 | 右下奥歯が疲れるとうずく、歯肉にニキビのようなものができた。 |
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年齢 | 50代 |
性別 | 男性 |
治療方法と治療結果 |
右下大臼歯の再根管治療 |
治療回数 | 7回 |
治療費総額 |
13万円(補綴別料金) |
リスクと副作用 |
再根管治療の成功率は約60%、治癒しない場合は歯根端切除術や意図的再植術の併用も検討(ただし部位による) |
精密な根管治療のご紹介
歯を支えている根の部分のことを歯根(しこん)といいます。歯根の中には神経や血管などを含んだ歯髄(しずい)という組織が入っています。この歯髄が入っている管を根管(根管)と呼びます。
根管治療とは根管に対する治療です。従来、根管治療は保険診療で行われてきた普遍的な治療のひとつですが、1990年代からCBCT(コーンビームCT)や歯科用マイクロスコープ(歯科用実体顕微鏡)がアメリカなどの海外で使用されるようになり、2000年に入ると日本でも根管治療専門医などにより歯科治療で使われるようになってきました。最近は一般開業歯科クリニックでも設置されるようになり、「CTやマイクロスコープを使った精密な根管治療」をすすめられた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これまで行われてきた保険診療内での根管治療とCTやマイクロスコープを使用した精密な根管治療の違いがよくわからず、治療法の選択に悩んだという話も聞きます。
なぜ根管治療が必要なのでしょうか?
むし歯はお口の中にいるむし歯菌が酸を産生し、歯を溶かして作る感染症です。むし歯が大きくなり、むし歯菌が根管まで到達すると根管治療が必要になります。むし歯が大きくなって痛みがある、以前治療したけれど違和感がある、痛みがある、外傷などで歯をぶつけたなどの歯に対し、根管治療では根管の中の菌や汚れをくまなく取り除き、再度むし歯が入ってこないようにぴったりふたをする治療です。
小さな歯の構造はとても繊細で複雑です
歯は1センチ前後の小さな硬い組織です。その組織の中にいわゆる「神経」が入った根管や、感染した歯質(むし歯)があり、肉眼で細かいところまで見ることはできません。従来の保険診療では指の感覚や術者の経験に頼る治療でしたが、精密な根管治療においてはマイクロスコープを使用することで約10~25倍の拡大視野で根管内を検査し、壁面にこびりついた汚れや最近のかたまり(バイオフィルム)、クラック(きれつ線)などを可視化できるようになりました。また、コーンビームCTを使用することで、2次元のレントゲン写真から3次元的に歯をとらえられるようになり、歯根の形態や周囲骨の状態を立体でイメージすることが可能になりました。
歯科用CTやマイクロスコープを活用した例
下顎前歯のエックス線写真です。レントゲン上では白く写っている充填材が過不足なく入っており、根管治療はとてもうまくできているように見えますが、根の先に黒い影があり、何らかの病変があることが想像できます。
この歯のCT画像で、歯根を横から見た断面を示しています。すると、充填材が入った根管の後ろ側にもうひとつ根管がある(赤点線)ことがわかりました。従来のレントゲン写真では撮影できなかった角度も、CT撮影することで、患者さんに侵襲を与えることなく診断が行えたケースです。
長期間にわたり、違和感や腫れを繰り返した歯で、金属の冠や土台をはずし、マイクロスコープで注意深く観察したところ、歯の内壁にきれつ線があることが判明しました。このようなきれつ線は裸眼で見ることはむずかしく、レントゲン写真やCT上でもはっきりしません。何が原因かわからないまま漫然と、何度も根管治療をくりかえすものの、いっこうに良くならないことが多々あります。マイクロスコープを使用し、高拡大視野で観察することで原因がはっきりするのですが、残念ながら歯根にきれつや破折があるケースでは多くの場合抜歯になります。
感染のコントロールのために大切なこと
マイクロスコープやCTは根管治療を成功させるために重要なツールではありますが、根管の中の菌や汚れをくまなく取り除いていくには、ラバーダムといった歯を頬粘膜や舌から孤立させて唾液が入らないようにするゴム製のマスクの装着、歯と材料の間に再感染させないような配慮(隔壁、二重仮封)が必要です。いくら最新式で精密な機械があっても、治療中やその前後に再感染するようでは根管内の感染コントロールは不十分です。
むし歯が歯肉の下まで進行した歯に対し、隔壁を作って漏洩しないようにします。
ラバーダムを使用します。
専門医が行う根管治療
当院では日本歯科保存学会専門医が精密根管治療を行っています。 歯科保存学とは、大切な歯をお口の中に維持、機能させていくための学問で、日本歯科保存学会専門医は「保存修復学」「歯内療法」「歯周病学」の治療技術や知識、実績を学会から認められた限られた歯科医師だけが取得できるものです。根管治療のスペシャリストが治療にあたる環境を整えていますので、安心しておまかせください。
根管治療だけでは治らない場合
歯根嚢胞摘出術
歯根の先端に袋状に膿がたまる「歯根嚢胞」ができた場合には、歯根嚢胞摘出術が必要です。この手術では、嚢胞を外科的に取り除き、再発を防ぐ処置を行います。嚢胞がある場合、通常の根管治療では対応できないことが多く、外科的手術が必要になります。局所麻酔をかけた後、歯肉を切開して嚢胞を露出させ、慎重に取り除きます。再発のリスクを抑えるため、マイクロスコープを使用して患部を確認しながら治療を進めることが一般的です。
歯根端切除術
根管治療は歯冠(歯の頭のほう)から治療することが多いですが、被せ物があり歯冠からアプローチできない、何度治療しても歯茎の腫れがとれないなどの場合、歯肉を切開して歯根の先端を切断し逆側から根管に充填する歯根端切除術を行うことがあります。
歯根端切除術の症例
初診時
主訴 | 根管治療を前医で行ったが歯肉が腫れて激痛がある。 |
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年齢 | 20代 |
性別 |
女性 |
治療方法と治療結果 |
歯肉を切開して歯根の先端を切断し逆側から根管に充填する歯根端切除術 |
治療費総額 |
15万円 |
リスクと副作用 |
歯根に亀裂などがある場合は治癒不全となり抜歯になる可能性があります。 |
むし歯の痛みがなくなった
むし歯が進行すると、神経が死んでしまうことがあります。この状態になると、痛みが急になくなるため「むし歯が治った」と誤解することがありますが、これは非常に危険なサインです。むしろ、神経が死んだことで痛みを感じなくなっただけで、むし歯はさらに進行していることが多いです。細菌が顎骨や血管にまで広がると、全身に悪影響を及ぼすこともあります。痛みが突然消えた場合は、むしろ早急に歯科医院を受診し、根管治療などの対応を受けることを推奨いたします。
保険の根管治療と
自費の根管治療の違い
保険治療(肉眼での治療)
- 保険が適応し、症状を取り除くことが目的
- 短時間で終わるが、来院回数が多くなる
- 術者の手指の感覚による
- 使用できる機材や薬剤に制限がある
- 汚染が除去されたか、破折線等がないかの確認が目視のため困難
自費治療
(マイクロスコープや
顕微鏡を使用)
- 精密な検査に基づき治療計画を立てる
- 治療後の再発のリスクが低い
- 1度の来院で集中した治療が可能(45~90分)
- まとめて3回分の予約が取れる
- 10倍程度に拡大するため、歯を削る範囲を最小限におさえ、確実な清掃が可能
- 最善最良の機材や薬剤を使用
- 根管内の汚染や、破線、隠れた根管内の症状を精密に把握することが可能
精密根管治療の取り組み
立体的に根管を
診断する歯科用CT
根管治療の成功には、正確な診断が欠かせません。このような場合に役立つのが、歯科用CTです。歯科用CTは、歯と顎骨の立体的な画像を撮影し、根管内の精密な診断が可能になります。歯科用CTを用いた診断により、より成功率の高い根管治療が実現します。
マイクロスコープによる
精度の高い治療
根管治療は非常に細かな作業であり、精度が求められる治療です。そのため、治療に使用する機器にもこだわる必要があります。マイクロスコープを用いることで、拡大視野下で治療部位をしっかりと確認しながら処置するため、再発リスクの軽減にもつながります。
細菌の侵入を防ぐラバーダム
根管治療では、治療中に根管内に唾液や細菌が入らないよう、清潔な状態を保つことが重要です。そのために使用されるのが「ラバーダム」と呼ばれる薄いゴムシートです。ラバーダムは、治療を行う歯だけを露出させ、口腔内全体を覆って唾液の侵入を防ぎます。唾液には多くの細菌が含まれており、これが根管内に入り込むと再感染のリスクが高まります。ラバーダムを使用することで、清潔な環境で治療が行われ、治療の成功率が向上します。
複雑な根管の形状に
対応できるニッケル
チタンファイル
根管治療では、細い「ファイル」と呼ばれる器具を使用して根管内を清掃します。根管は非常に細く、複雑な形状をしているため、従来のステンレス製のファイルでは十分に対応できない場合があります。当院では、柔軟性に優れた「ニッケルチタンファイル」を使用しており、これにより複雑に曲がった根管でもスムーズに清掃が行えます。ニッケルチタンファイルは柔軟なため、根管内を傷つけず、治療の精度を高めることができます。また、根管の清掃を効率的に行うことで、治療時間の短縮にもつながります。
再発のリスクを
抑える予防歯科
根管治療は精度が求められる複雑な治療ですが、適切な診断と技術により、歯の寿命を延ばすことが可能です。根管治療後に再感染やむし歯の再発を防ぐためには、定期的な歯科検診とメインテナンスが重要です。神経を除去した歯は、むし歯になっても痛みを感じないため、むし歯の進行に気づかないことがあります。予防歯科に積極的に取り組むことで、再発リスクを最小限に抑え、歯の健康を長く維持することが可能です。また、日頃の歯磨きの質を向上させるため、歯科医院でのブラッシング指導も行っております。